和風“不思議の国のアリス”【f植物園の巣穴 感想とあらすじ】

読書

その穴の先に、あなたはどんな世界を見ますか?

みなさんこんにちは、卯月です!

今回は梨木香歩さんの「f植物園の巣穴」をご紹介します。
前回ご紹介をした「西の魔女が死んだ」の作者でもあり、優しさの溢れるファンタジーは心を揺さぶられます。

日常と非日常が混ざり合う不思議な時間を楽しんでください。

感想

目の前で起きる出来事は夢か現か

主人公である佐田豊彦の身の回りで次々と不思議な出来事が起こりますが、どの辺りから夢に入っているのか定かではなく、夢のような現実のような話が延々と続きます。

話が進むと、主人公のいる異界は主人公自身の「記憶」の中だという事が分かってきます。
思い出すのは、主人公が過去に失ってしまった人達に関する記憶であり、その記憶の中の何かを象徴するものです。主人公は、過去や失ったものと向き合うために記憶の中の異界に来たんだと思います。

喪失の穴

失ってしまった人達に関する記憶はどれも主人公にとってはあまり触れたくないことで、その人達に関する記憶の一部を封印して無いものとして扱っていました。
無いものとして扱えば、自身から切り離すことが出来ますが、無理に切り離そうとすれば心には痛みや穴が残ります。

主人公の歯痛は無理に切り離したときの心の痛みで、物語の随所に出てくる「穴」は、過去の大きな喪失や封印してしまった記憶の一部を表していると思います。
この作品の最大の魅力は、物語の最後です。感動的でありながらも静かで暖かな最後は見所です。

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読んで欲しい人

  • ファンタジーが読みたい人
    • 現代に生きている中で不思議な世界に迷い込む話が好きな方におすすめ
  • 植物に興味がある人
    • お話に絡んで色々な植物の名前が出てくるので想像しながら楽しめる
  • 「西の魔女が死んだ」で梨木香歩さんを知った人
    • まるで別人が書いたかのような毛色の違うお話
  • 家族の物語で感動したい人
    • 離れて暮らす家族がいる方は会いたくなるかもしれませんね

「f植物園の巣穴」はどんな話? あらすじを紹介!

虫歯の穴、植物園の巣穴、現実はどこ?

f植物園に勤務する主人公の佐田豊彦はある日、歯に大きな虫歯の穴があき痛みに耐えかねて歯科医院へ歯の治療に行くが、その日を境に不思議な出来事に見舞われるようになる。

その日、歯の治療を終えた豊彦は仕事へと向かい、自身の担当する水生植物園の一画まで行くと、水仙の葉茎がなぎ倒され「道」のようになっているのを発見した。「道」は椋の木の巣穴の前から始まっていた。この巣穴のことは前から気にはなっていたが、第六感がやめておけと囁くので深入りはしなかった。

しかし、そんな豊彦を嘲笑うかのように身の回りで次々と不可思議な出来事が起こる。その出来事を豊彦は「一般常識」や「科学的思考」で切り捨てようとするが、「穴」の存在から逃れることはできなかった。

忘れていた大切な記憶たち

物語の中盤でf植物園の巣穴に落ちた豊彦は、故郷の山河に酷似した風景に囲まれて困り果てていた。
そこへ「カエル小僧」なるものが現れ、彼と行動を共にする。

異界へと迷い込み過去を振り返った豊彦は、喪失していた記憶が蘇ってきた。

幼い頃、可愛がってくれたねえやの「千代」が突然いなくなった本当の理由。

三年前に亡くなった妻の「千代」の事。
流産した子供の事。

封印していた過去の記憶を思い出し、カエル小僧の正体を知った豊彦は別れの時、最後にカエル小僧に名前を与えた。

豊彦の“現実”

そして、現実世界へと戻って来た豊彦は気がつけば布団で寝ていた。目が覚めるとそこにいたのは妻の「美代」だった。

心配そうな表情で話しかける美代に豊彦は自身に何が起こったのか、と尋ねた。

聞けば、植物園にある椋の木の巣穴に落ち、二日間、意識不明で寝ていたという。

「美代」の元の名前は「千代」といい流産の後、ある理由でいなくなったねえやと同じ名前なのは不吉だと豊彦の実家から改名を勧められ、「美代」と改めたが、豊彦はそれを不服に思い、「美代」と改名した途端、まるで別人のようになってしまった妻の事を心のどこかで「死んだ」者と見なしていた。

それから豊彦は流産した子供の事を美代に話すと美代は泣いて喜んだ。それから一年後、「千代」へと名前を戻した妻が懐妊したことを巣穴に報告した。

最後に

まるで不思議の国のアリスのように、豊彦は落ちた穴の中で現実ではない世界に迷い込みます。

もしかしたら彼は、その穴に大切な物を落としてしまったのかもしれません。

みなさんの中にも、どこかに大切な落とし物をしている方がいるのでしょう。取りに行くにはきっと痛みも伴いますが、穴に落ちてみる勇気も必要なのかもしれませんね。

ここまで読んでくださってありがとうございました!

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